十一 竈払ひ

元禄時代にあつた私娼の一で、その超りは丹波国大原明神の巫女が、諸国を廼り竃の祓をなしたのが、いつしか売笑を業とするやうになつたもので、前記の歌比斤尼と同様に堕落したものである。「好色一化男」に此の私娼のことを叙して、「あら面白の竈神や、おかまの前に松植ゑんと、すゞしめの鈴を鳴らして県巫子来れり。下には檜灰色の襟をかさね、薄ぎぬに月日の影をうつし、ちはやかけ帯結び下げ、うす化粧して眉濃く、髪は自ら撫で下げ、その有様、なかなか御初穂のふんにてはなるまじ。品こそ変れ、望めば遊女の如くなるものなり」とあるから、巫女の装をなした売笑婦であつたことが分る。そして上記の「県巫子」と云ふのは、恐らくは山城の県神社の巫女を云つたものであらう。大原巫女が売笑婦に化して流行したがため、県の巫女も竈祓を名にして諸国を廻り肉を売つたことゝ思はれる。